
ビジョナリーとインテグレーターのロケット・フューエルを、どうつくるか。多くの経営者にとっての本当の悩みは「インテグレーターをどう見つけ、どう任せるか」です。
EOS JAPANカンファレンス2026のパネルディスカッションでは、実際にビジョナリーとインテグレーターのペアが誕生した3社にご登壇いただき、そのリアルな経験を語っていただきました。
登壇者
- PAWS有限会社:三好さん(ビジョナリー)、大浦さん(インテグレーター)
- 合同会社エースジャパンリテイリング:阿部さん(ビジョナリー)、石橋さん(インテグレーター)
- 株式会社TGM:田上さん(ビジョナリー)、丸山さん(インテグレーター)
モデレーター:EOSインプリメンター®のカール
テーマ1:インテグレーターに席を任せられるようになるまで、何が必要だったか(ビジョナリーへの質問)
ビジョナリーの多くは創業者です。自分が担ってきた役割をインテグレーターに完全に任せられるようになるまでに、何が必要だったのか。まだ手放しきれていない部分はあるのか。最初の問いはビジョナリーの3人に向けられました。
PAWS 三好さん:「全部一人で抱える癖」がまだ抜けない

三好さんはもともと獣医師で、キャリアの最初の10年は診察と手術だけをしてきたそうです。勤務医時代に「自分の子を預けたいと思える業界ではない」と感じ、「自分の子を預けられる業界にする」というビジョンを掲げて家業の動物病院に戻り、現場を離れる決断をしました。
経営学を学んでも、学ぶことと現場で実際に起こることの差に苦しみ、何より「一人で全部抱えなければいけない」という思い込みが強かったと振り返ります。EOSでビジョナリーとインテグレーターの図を見たとき、「これだ」と思ったそうです。
インテグレーターの大浦さんが入社して1年半。数字まわりはほぼ任せられるようになりました。それでも、「ずっと一人でやってきた癖が抜けず、週次ミーティングでつい口を出しすぎてしまう」と率直に語りました。
エースジャパンリテイリング 阿部さん:選ぶ基準は「仕事ができるか」ではなく「人としての魅力」

阿部さんは神奈川県川崎市でセブン-イレブンを5店舗展開しています。EOSを始めたのは約6年前。当初からインテグレーターが欲しいと考えていたものの、「本当にうちの会社にインテグレーターが誕生するのか」と悩んでいたそうです。
最初にインテグレーターに指名した社員は、仕事ができるという理由だけで選び、結果的に本人を苦しめてしまったといいます。その経験から、阿部さんはインテグレーターに求めるものを考え直しました。
「人柄や人としての温かみ、周りから好かれて人が集まってくるような人格。仕事ができるかどうかは、後からどうにでも補えると思いました」
現在のインテグレーターの石橋さんは、もともとパートで入社した方です。当時はお子さんがまだ小学生でした。阿部さんは「そういう環境でも現場のトップとして活躍できる環境を会社が整えられれば、会社はもっと魅力的になる」と考え、アカウンタビリティチャートを見せながら役割と期待を伝えました。そして1年間をかけて、自分が担っていたインテグレーターの席を少しずつ石橋さんに引き継いでいったそうです。
TGM 田上さん:人のマネジメントは、得意な人に任せる

田上さんは、ビジョンを描くのは好きでも、人のマネジメントは本質的に得意ではないと自己分析します。「技術としてはできるけれど、すぐにメッキが剥がれる」。一方の丸山さんは「太陽のような人」で、社員からは「会社のお母さん」のように思われている存在です。組織を作るのは人である以上、人に関わる部分は早い段階で丸山さんに任せたそうです。
一方で、営業数値や損益、キャッシュフローの管理はまだ引き継ぎの途中です。期限を決めてトレーニングをしながら、店舗のシニアマネージャーを兼任してもらい、営業数値をリアルに体験してもらっているところだといいます。
テーマ2:ビジョナリーと「同じ絵」を見るための工夫(インテグレーターへの質問)


話がよく飛び、次々と新しいことを始めたがるビジョナリー。そのビジョナリーと「同じ一枚の絵」を見続けるために、インテグレーターは何を工夫しているのか。
丸山さん(TGM)は、とにかくよく話すことだと言います。インプリメンターからは「セイムページ・ミーティング」を毎月行うよう勧められていて、時間をとって実施している。それでも日々の業務に追われてできない月もあり、ずれを感じることは今でもあると、率直に話しました。
石橋さん(エースジャパンリテイリング)は、ビジョン・トラクションシートについて阿部さんとよく話すことに加え、その「さらに先」を話し合っているそうです。阿部さんは石橋さんに「結局どんな人生を歩みたいのか」と人生設計まで聞き、石橋さんも阿部さんに「この仕事を通してどこまで上り詰めたいのか」を聞く。そうすると、阿部さんが「今これをやりたい」と言ったときに、その意図が先の目標につながっていることが分かるといいます。
「1%でも可能性があるなら、それを自分たちの店舗や人に置き換えて作戦を考えます。同時に、一番コストがかかるのは失敗なので、失敗を最小限にする方法も一緒に話します」
大浦さん(PAWS)は、PAWSの「2040年までに、自分の子を預けたい拠点を全国に30拠点つくる」というビジョンを紹介しました。ゴールは決まっていても、そこへの道は一つではない。そして獣医師の三好さんと、会社員として働いてきた大浦さんとでは、キャリアも考え方もまったく違います。
「ビジョンは、ビジョナリーの頭の中にしかありません。言葉にしても、解釈は人によって違う。だから私が一番心がけているのは、三好の頭の中にあるものを、どれだけ自分の中にインストールできるか、どれだけシンクロできるかです」
テーマ3:インテグレーターとうまく協働するには(ビジョナリーへの質問)

続いて、ビジョナリーの側から、インテグレーターとどう協働しているかを聞きました。
田上さんは、二人はかなりぶつかると言います。それでも最後には必ず「結局、目指しているところは同じだよね」という言葉で終わる。議論は持ち越さず、ビジョンのすり合わせは定期的に行う。そして週に何回も一緒にランチに行き、職場を離れて違う角度から話す時間を大切にしているそうです。
阿部さんは、会社のビジョンだけでなく、自分と石橋さんそれぞれの人生や、子どもの将来も含めて「どうなることが幸せなのか」を常々話す機会を作っていると言います。移動中やランチの時間も含めてです。
「ベースにあるのは尊敬です。僕がぼそぼそと独り言のように話していることを、実はすべてメモしてくれていて、気づいたら裏で実行されている。だからこそ、話す機会を作ることが協働のポイントなのだと思います」
三好さんは、「うまくいかせようと思っているわけではなく、純粋に大浦さんが好きなんです」と答えました。仕事の価値観も、バイクなどの趣味も似ている。「信頼できると思った人は一生信頼する。だからオープンに正直に、好きなようにやってもらっています。無理をした関係は、たぶんうまくいかないので」
モデレーターは、3組とも深いところで互いを尊敬し合っていることがよく分かる、とまとめました。
テーマ4:これからペアを組もうとする経営者へのアドバイス

最後の問いは、これからビジョナリーとインテグレーターのペアを組もうとしている経営者へのアドバイスです。
丸山さん(TGM):「ビジョナリーの方は特徴がよく似ていて、飽きっぽい、口を出す、やりたがり。インテグレーターは我慢の連続で、一番ストレスの多い役割かもしれません。それでも会社を動かしている実感があり、やりがいがあります。ビジョナリーの方は、インテグレーターを見つけるなり連れてくるなりして、いた方が絶対にいい。ずっと兼任するのはやめた方がいいと思います」
石橋さん(エースジャパンリテイリング):「ビジョナリーは経営者の代表、インテグレーターは現場の代表。私は対等な立場だと思ってこの席に座っています。やりたいことと実際に実現できることは違うので、財源やオペレーションの面から精査し、できないことにはノーと言い、違う方向に行きそうなときはストップをかける。ビジョナリーがインテグレーターを兼任すると、会社の夢と現実が違う方向に動き、指示の統制が取れなくなって現場が右往左往してしまいます」
大浦さん(PAWS):「ビジョナリーの方は、夢はとにかく大きい方がいい。ありえないくらいの夢の方が、インテグレーターも見るポイントが変わり、このペースでは足りないと気づけます。インテグレーターは手綱を引っ張る側なので、夢が大きいほど大変ですが、目指す方には頑張っていただきたいです」
ビジョナリーの3人もこれに応えました。
三好さんは、もともと10拠点だった目標を、インプリメンターに「低すぎる」と言われて30拠点にしたというエピソードを明かしつつ、「中途半端なわがままでは結果が出ない。世の中や従業員にとって良いことなら、責任を持ってもっとわがままになろうと思う」と語りました。
阿部さんは、ビジョナリーとインテグレーターの間に上下関係はないと強調しました。「雇用契約上は従業員ですが、私にとっては対等、時には上かもしれません。万が一どちらかが窮地に立っても、必ず味方でいる、必ず守る。その前提があるから、言いたいことも正直に言えるのだと思います」。そして、2万店を超えるセブン-イレブンの中で5店舗のオーナーがどこまでコンビニ業界を良くできるかに挑戦していると話したうえで、こう続けました。
「いきなりすごい人でなければダメだということではありません。会社のコアバリューを体現している人が社内にいるなら、仕事ができるかどうかではなく、一度面と向かって会社の未来を話してみてください。その人がインテグレーターの候補かもしれません。今働いてくださっている従業員さんの顔を思い浮かべながら、コアバリューに当てはめてみてください」
田上さんは、「自分の給料を早く抜いてほしいと昔から言っていた」と話し、現場をまとめるインテグレーターこそ一番偉いのではないかと語りました。「私は、圧倒的に尊敬できる人をインテグレーターに据えたつもりです。自分にないところをすべて持っていて、人に対して本当に強い。尊敬しかありません」
3組の話から見えたこと
3組のペアは、業種も規模も、インテグレーターが生まれた経緯もそれぞれ違います。それでも、共通していることがありました。
- インテグレーターは「仕事ができる人」ではなく、コアバリューを体現し、ビジョナリーが心から尊敬できる人から生まれている。
- 引き継ぎには時間をかけている。 1年かけて席を譲る、期限を決めてトレーニングするなど、一度に手放してはいない。
- ビジョンだけでなく、その先の人生まで話し合っている。 毎月のミーティング、週に何度ものランチ、移動中の会話。話す量が、同じ絵を見るための土台になっている。
- 二人は対等である。 インテグレーターがノーと言え、ビジョナリーがそれを受け止められる関係が、会社を前に進めている。
お知らせ:『ロケット・フューエル』日本語版について
パネルの最後に、モデレーターから、ビジョナリーとインテグレーターの関係を体系化した書籍『ロケット・フューエル(Rocket Fuel)』の日本語翻訳が完了し、現在最終チェック中であることが紹介されました。発売日などの詳細は、追ってご報告します。