「常に仕事に追われて考える時間がない」と口にする経営者は少なくありません。特にベンチャー企業・中小企業においては、社長の時間の使い方で業績が左右すると言われています。今回は「経営者の時間の使い方」をテーマにお話しします。
時間に追われるのは「単純化」と「権限移譲」ができていない証拠
そもそも、なぜ多くの経営者は時間がないと思うほど忙しくなってしまうのでしょうか? それは、EOSが掲げるリーダーシップの5つの能力である「単純化」「権限移譲」「予測」「システム化」「構造化」ができていないからです。 ここでは、経営者が自身の時間を確保するための「単純化」と「権限移譲」について触れてみましょう。単純化
あなたの会社は業務プロセスやシステム、仕事のルールなどにおいて「単純化」できているでしょうか?EOSに「Less is more」という言葉がありますが、端的に「何でも少なくシンプルな方が多くを得られる」という意味です。たとえば、4つ、5つと異なる事業を展開している社長がいますが、こうした経営者は忙しさから抜け出すことはできないでしょう。複数のビジネスにおける顧客が異なれば、業務プロセスが増えることになるため、当然ながら経営者の時間は必然的に分散されます。ポジティブに捉えれば「チャンスに溢れている」状況とも言えますが、社長自らすべてに着手しているのであれば非効率と言わざるを得ません。
若手起業家の異業種交流会などでは「売上高」「事業数」「従業員数」を自慢げにコメントする方もいらっしゃいますが、中期的に分析するとコアビジネスに経営資源を投下できなくなり、失敗に終わるケースが多いものです。
組織そのものを単純化することはとても重要です。単純化は、事業を行うルールを効率化することや、それを周知する方法なども含まれます。これは事業のプロセス、システム、メッセージ、ビジョンにも当てはまり、ほとんどの組織は設立当初から複雑すぎるとも言われています。 組織が成長すると複雑さを増すため、見て分かりやすい資料やチェックリストを使って、プロセスと手順を単純化することが大切です。組織の単純化が経営者の時間に影響することは言うまでもありません。
権限移譲
経営者に時間がない一番の原因は「社長がすべて自分でやろうとすること」です。マーケティング、営業、経理とあらゆる業務を一人でこなしていると、1日が24時間でも足りません。また、せっかくスタッフを雇用しても、急に辞めてしまうとその業務を引き継ぐ人が不在で、結局は経営者のあなたが代わりに仕事をすることになります。そうすると、本来「経営者がやるべき仕事」に手が回りません。たしかに、仕事ができる人ほど「他人に任せることが怖い」と思うものです。しかし、他の誰かに仕事を任せない限り、社員の能力は向上しないということを忘れてはけません。 では、経営者が「他人に任せるべき仕事」はどのように決定するのでしょうか?
1つの手法ですが「好き」「好きではない」という縦軸と「得意」「得意ではない」という横軸でマトリックスをつくり、あなたが手掛けている業務項目を分類してみてください。経営者であるあなたは「好き」な仕事に特化し、相対的に「好きではない仕事」「得意ではない仕事」を他人に任せるのです。まずは一番好きではない仕事から移譲すると良いでしょう。
組織の規模を問わず企業には、ビジネスを生み出す「営業・マーケティング」、サービスの提供や商品の製造を行う「オペレーション」、経理・総務・人事・法務・システムといった構造基盤の管理を行う「バックオフィス」という3つの機能があります。それぞれの機能を他人に権限移譲し、経営者が「インテグレーター」として全体を統制しながら、自身のユニークアビリティを最大限に発揮できた時に組織は大きく成長するのです。

優れた経営者は定期的に「一人だけの時間」をつくる
会社にいれば顧客からの電話が鳴り、従業員からは次々と声をかけられます。PCを開けば「進行中」のファイルが山ほどあり、メッセージが受信トレイに溜まっていく様子がうかがえます。しかし、効率的に仕事を進めるためには「集中」することが重要であることは言うまでもありません。さて、あなたが経営者として、会社の全体像を俯瞰する時間は一週間にどれくらいあるでしょうか?優れた経営者は定期的に「一人だけの時間」を確保しているものです。具体的には、喫茶店などの誰からも話しかけられない社外の空間で、PCも持ち込まず、スマートフォンの電源もオフにした状態で「自分と向き合う」時間です。そして、紙とペンだけを使って組織全体の論点を整理するのです。私たちはこの時間を「すっきりブレイク」または「クラリティーブレイク」と呼びます。週に1時間、事業全体を俯瞰できる時間を構築することで、会社のどこに機能不全があるのか?を発見し、改善を繰り返すことが可能となるのです。
経営者は日常的に「他人のため」に多くの時間を費やしてしまいますが、自分一人の時間を確保するためには「無駄な会議には参加しない」「アポイントを入れたい放題にしない」というような努力も必要です。外部からの情報に振り回されるのではなく「自分で時間を決めて、つくりに行く、取りに行く」ということが大切です。
ピーター・F・ドラッカーはこう言います。 「経営の成果を上げたければ時間の使い方を変えろ。一年前と時間の使い方が変わっていないようならあなたの進歩は止まっているかも知れない。」
社長業の精度を上げるために時間をつくり、社長業に専念すべく時間の使い方を変えるという意識が重要と言えるでしょう。