会社の規模に関わらず、経営者と社員には大きな隔たりがあります。例えそれが社長と社員の距離が極めて近い小規模な会社であったとしても、社長と社員の頭の中はびっくりするほど違います。
「社員がついてこないのはなぜだろう」
この問題は、「そもそも社長と社員は考えていることが違う」と認識するところからスタートしたほうが良さそうですね。
経営者の悩み、「社員がついてこない」その理由は?
社員がついてこない理由は大きく3つある
1、コミュニケーション不足
社員とのコミュニケーション不足は、社長(経営者)と社員の心が離れている大きな要因です。長期化するコロナ禍や、近年のハラスメント対策の強化などで、近年は社員と気軽にコミュニーションを取ることが難しいとはいえ、伝えるべきことはしっかりと伝え、逆に社員のことで知らなくてはならないことはしっかりと知ることは必要ではないでしょうか。
会議やミーティングなどオフィシャルなコミュニケーションだけではなく、体面であれば1on1を定期的に行うことができますし、テレワークであればオンライン上のコミュニケーションツールを導入するなどして、コミュニケーションの場を創出することは可能です。オフィスでの自然な雑談や、就業後の部下との飲食が難しいご時世ではありますが、工夫次第で社員の心の内を知り、さらには心の機微を拾うことができるようになるかもしれません。
社員は、「自分が気にされている」と思うと、それに答えようと優れたパフォーマンスを発揮するものです。社長の方から社員に歩み寄り、積極的にコミュニケーションを取ってみてはいかがでしょうか。
2、理念・ビジョンを共有できていない
例え経営幹部や管理職の立場にない社員であっても、会社の理念・ビジョンについては一定の関心を持っているものです。入社の理由が、「理念に共感できたから」というのはよくある話で、社員の中には給与や待遇よりも会社の理念・ビジョンを重視している人が意外と多くいます。
しかし、入社後は目の前の業務で手一杯になり、会社の全体を俯瞰するような余裕はありません。いかなる熱い理念やビジョンが社長にあったとしても、それを社員が日々の業務の中で実感できなければ、温度差はどんどん開いてしまいます。そうならないためにも、社長は意識的にトップメッセージを社員に伝える必要があるのです。
月例などで、定期的に社長が全社員に対してメッセージを送る、あるいは双方向的なツールを利用して、社長と社員が対話する機会を設けるなど、「会社として今何を考えているのか、どこへ行こうとしているのか」を共有することで、温度差を減らしていくことはできます。
3、社長(経営者)が独断的、一方的
一昔前は、カリスマ性と強烈なリーダーシップを備えたワンマン社長が多くいました。このタイプは中小企業の社長に多く見られ、会社としての意思決定は社長の独断に委ねられ、良くも悪くも社員は社長についていけばよかったのです。
しかし、時代は令和。会社に属していても社員は多様であることが歓迎され、個性が尊重される時代です。そのような風潮の中で、ワンマン社長が受け入れられるとは思えません。いくら社長が正しいことを言っても、社員の意見が反映もされないような決定方法であれば、社員は会社に対して疎外感を覚えるだけです。令和の組織は、多声的に意思決定を行うべきではないでしょうか。
人が離れていかない社長の特徴とは?
逆に、人が離れていかない社長に特徴はあるのでしょうか?
それはシンプルに、社員を大事にする社長です。簡単なようで難しいことではありますが、全てはここに集約されると言っても過言ではないかもしれません。
社員は会社にとって戦力となるプレイヤーでありパフォーマーですが、利用するものではありません。社員を駒とみなすような社長では、社員が離れていってしまいます。社員の活躍を心から願い、成長を惜しみなくサポートする社長には、社員が自ずとついていくものです。社員の成長は会社の成長に直結します。
人と比べず、自分のやり方を確立することが重要
社員が自分についてこないと悩む社長の中には、2代目や3代目で30、40代と若い人もいます。悩みとしては、先代社長についてきていた古株の社員が、自分に代替わりした途端についてこなくなったというものが多いです。
2代目、3代目の社長は、これまで先代がやってきたやり方が古いと感じ、自分は新しいことをやりたいと提案してみるも、古株の社員に理解されづらいということが往々にしてあります。ビジネスは絶えず変化し、先代のやり方を踏襲しているようでは時代に取り残されてしまうことからの提案とはいえ、先代社長のやり方に慣れてしまっている古株社員にとってはマネジメントの方法も違うので反発も起こります。
しかし、そこで先代のやり方に戻してはいけません。自分と先代は違うので、真似をしようとしても周りに見透かされ、ムリも出てきます。マネジメントスタイルは誰かに合わせるのではなく、自分の性格やスタイルに合ったもので大丈夫なのです。時代と共に社長のあり方も多様化しています。人と比べず、自分なりのやり方を確立することが重要なのです。
社員との間に壁を感じる!自分は頑張っているのに、社員には伝らないのはなぜ?
- 社員との意識の差
社員が社長についていっていないというよりも、社員が社長に「何を期待されているのか」そもそもわかっていないという問題があります。社員に対して、「あなたの役割はこうで、ここまでやることを期待しています」と伝えていない社長が意外にも多いものです。
社長が社員に期待していることを、当の本人(社員)が理解していないので、双方に意識の差が生まれている状態です。このギャップを埋めるには、1on1などで、「あなたに期待していることはこうです」と伝えた後に、その人に伝わっているか確認するために、「もう一回言ってみてください」と確認することが大事です。反対に、社員の人が言ったことを社長も、「あなたが言ったのはこういうことですね」と確認することで、徐々に意識の差は少なくなってきます。
同じことを伝えても、持っている知識や経験が異なるので、違う捉え方をされることが多々あります。お互いにどのように理解したか確認し合い、歩み寄ることが大切です。
- 幹部の経営意識が足りない
経営視点をもっているのは社長だけ……このような状況を変えるには、経営をチームとして行う必要があります。経営チームをつくり、社員も経営者の一員として定期的に経営会議に参加させます。そこでは社長のことが課題リストにあがることもあります。つまり、社長のことですら、社員も巻き込んで共に解決しようとするのです。従来の会社であれば、社長のことに限っては社員には変えようのないこととして受け入れてしまいがちですが、社員が社長のことですら自分たちで意見を出し合えるようになると、経営者の視点で会社のことを自分事として考えられる癖がつきます。
社長と社員、立場は違っても意識の差を埋めることは可能?
ここまで、社長と社員の意識の差についてお話ししてきましたが、ここからは具体的な解決に向けた提案をしていきたいと思います。
まず、おさらいします。
意識の差を埋めるには、
1、コミュニケーション
2、ビジョンの共有
3、社員の声に耳を傾ける
ことが重要だということはわかりました。
では、どのようにしてこれらを実行すればよいのでしょうか。
EOSのアカウンタビリティーチャートは、これらを無理なく自然に実行できるツールです。
アカウンタビリティチャートを使って、組織の中の正しい席(役割)と正しい人を定義します。席の役割を箇条書きにして、「この席に着く人にはこれらの役割がある」と認識させます。組織の中のどの人が、どのような役割を担っているか、またそこにふさわしいのは誰かという議論を会社の全員で行うことが何よりのコミュニケーションになるほか、会社の業務が可視化され、全体の中での自分の立ち位置を知ることができます。社長が人知れずEOSを導入するのではなく、導入のプロセスをオープンにして全社的に取り組むことが大事です。

経営は一人で頑張るものではない。EOSはチーム経営を推奨している
EOSはチーム経営を推奨しています。自社がチームとしてどのような状態にあるのか 上司と部下の業務領域を円にして考えてみましょう。
- 2つの円が重なっていない
- 2つの円がすっかり重なり合っている
- 2つの円がすこし重なっている
また、コミュニケーション以外の部分では、部下のマインドセットも重要です。
EOSでは、部下を自分(上司)の仕事を手伝ってもらう人(アシスタント)認識させるのではなく、会社の目指すべきビジョンを一緒に達成する仲間であると認識させます。 この、ビジョンを一緒に達成する仲間には、「社長」も含まれます。
社長という肩書があるおかげで、社員は社長を仲間と認識することは難しいかもしれませんが、チームにおいて「社長」はひとつの役割です。EOSの言葉でいう「ビジョナリー」という、組織にとって欠かせない役割を担当しているだけです。会社規模が大きく、社長1人では達成できない事業をしているのであれば、社長の手が及ばない業務を担当するのが社員という存在です。会社である以上、立場的に上や下はありますが、それも役割として存在しているだけのことです。根底にあるのは、一緒にビジョンを達成する仲間という認識です。
極端な例ですが、経営が安定して、社長が社員に仕事を任せられるようになり、自分は遊んでいるとなると、「一緒にビジョンを達成しよう」という言葉も嘘に聞こえ、一緒に働いている社員はどんどん心が離れていきます。社長はビジョナリーやインテグレーターという役割の中で最大限にパフォーマンスを発揮することが大事です。
自分の会社のビジョンや行動規範が建前として形骸化していないかもう一度考えてみてください。もし、形骸化してしまっているのであれば、社長自身がそのビジョンに魅力を感じていないか、もはや信じられなくなっているのかもしれません。ビジョンや行動規範は社長が社員に対して向けるものと考えがちですが、そうではありません。ビジョンや行動規範は社長にも向けられています。社長の行動をみて、社員は、「ついていこう」と思うことができるのではないでしょうか。
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そして、もう一つおすすめするものは、『トラクション ビジネスの手綱を握り直す 中小企業のシンプル・イノベーション』です。この『トラクション』を読むことで企業経営における6つの最重要要素を理解することができます。トラクションとは実行力のこと。この本は単に、企業の経営責任者のためのものではありません。経営チームから全ての従業員までもを対象にしています。企業の構成員一人ひとりがビジョンを実現するために「実行」していく、そんな企業づくりのために必要な考え方とツールが詰まった一冊となっています。是非ご一読ください。