「企業は人なり」という言葉があるように、企業活動を支えるのはいつでも人材です。しかしながら、採用活動において自社にマッチした人材を確保することは難しく、ほとんどの場合は入社してからの社員教育によって貢献度の高い社員を育てていきます。はたして社員教育は本当に必要なのでしょうか。そもそも採用において、最初から即戦力となる人材を確保することは不可能なのでしょうか。今回は、企業の採用活動を見直すと同時に、採用後の教育の必要性についても考えていきます。
企業の成長には社員教育が必要不可欠!?
手厚い社員教育により、貢献度の高い社員が育つ。……これはあくまで経営者の理想です。実際に社員教育が社員にもたらす成長にはばらつきがあり、必ずしも高い効果が得られているわけではありません。 もちろん、社員教育は必要であり、社員教育自体を否定しているわけではありません。ここで言いたいのは、「社員教育ありきで採用を考えていいのだろうか」という、そもそもの前提を疑う話です。
経営者には耳の痛い話ですが、「社員教育の必要性を感じた時点で、それは採用の失敗である」という言葉があります。 とりあえず入社させて後から教育しよう、ゆっくり育てようと経営者は考えてしまいがちですが、それが間違いということです。 人を採りたいと思うとき、会社はどのような状態なのでしょうか。それは、既存社員も社長自身も業務で手一杯で、猫の手も借りたいほどの忙しさの渦中にあると思います。しかし、本当に猫の手みたいな人材を安易に採用してしまうと、どうなるでしょうか。
一時しのぎで担当してもらった、それこそ「猫の手」でもできるレベルの業務がひと段落した時に、次はその社員に対しての長い長い教育がスタートすることになります。そこに費やす時間と労力を考えると、「猫の手」を採用してしまった代償は大きいといえるのではないでしょうか。
中小企業の経営者は、「うちみたいな会社に、最初から良い人材が来るはずがない」と考えがちです。確かに大企業のように、数多の応募の中から数名の逸材を選んで採用するという恵まれた環境ではないですが、例え、「猫の手」も借りたいほどの忙しさがあっても、“とりあえず”の採用は危険です。後々大変なことになってしまいます。
どのような採用をしたらいいのか?
採用の基本ではありますが、マッチ度の高い人材を採ることが重要です。そのためには、明確な採用基準を設け、募集要項も工夫し、その場しのぎではなく長期的な視点で自社にとって本当に必要な人材を採用しましょう。当然ながら時間はかかりますが、我慢も必要です。急がずにじっくりと探す以外に方法はないのです。マッチ度の高い人材を採用するために、私たちが提唱する経営システム「EOS®」では、採用基準のフィルターとしてGWCを用意しています。GWCはEOS®が重要と考えている、「正しい人を正しい席に座らせる」ためのフィルターであり、採用シーン以外にも様々なビジネスシーンで活用されています。
GWCとは、「Get it(業務を理解できる)」、「Want it(業務に対するやる気がある)」、「Capacity to do it(業務を遂行する能力がある)」を意味する頭字語のことです。新しく採る人材が、この3つを満たしてさえいれば、企業は高い生産性をキープできるのです。
Gets it(業務を理解できる)
一言で言えば、そのポジションの任務を理解している状態です。「理解する」とは、自分の役割、企業風土、システム、ペース、仕事を軌道に乗せる方法をきちんと理解しているということです。
Wants it(その業務に対するやる気がある)
これは、その仕事が心底好きということです。多くのマネージャーは、社員にやる気を出させるためには給料を上げないといけない、待遇をよくしないといけないと感じていますが、実際にはそんな必要はありません。仕事が好きであればいいのです。
Capacity to do it(業務を遂行する能力がある)
仕事をきちんと遂行するための時間的余裕はもちろん、知能、身体的能力、精神的能力を持っているという状態です。一定以上の知性、スキル、知識、EQ(心の知能指数)が必要な仕事に、それだけの能力がない人が従事することもありますが、それでは余裕があるとは言えません。
新しく採用する人材がこれらの3つの要素を満たしていれば、わざわざ教育する必要はありません。席を作ったうえで人を探すこと、そしてどんな人を採りたいかを先に決めることが大事なのです。スキルや経験が十分ではないにも関わらず、能力以上の席に座らせることはNGです。どのような立場でどのような役割を担ってもらうのか。どのような人に入社してほしいかを決める必要があります。席を用意して、その席に合った人を探すのです。最初に人を探すのではありません。
どのような人を採らないといけないのかが決まっていて、その人を探すことさえできれば、教育は必要ないのです。とはいえ、採用に成功したからといって、社員への教育がまったく必要ないわけではありません。入社後、その社員にさらに高いレベルの仕事をお願いするようになった時には、新たにトレーニングが必要になってきます。その時は、それまでその席に座っていた人が教えれば良いのです。
社員教育がうまくいっていないと悩んでいる経営者は、ぜひGWCの3つのフィルターを活用し、「正しい人を正しい席に座らせること」を意識してみてはいかがでしょうか。

席の定義はどうやって決める?
「正しい人を正しい席に座らせること」について、もう少し考えてみましょう。正しい人の採用の前に、正しい席を定義することが重要です。ここでは下図に沿って説明を進めます。
椅子はこのように大きく4つに分類されます。「インテグレーター」に座るのは、他でもない社長です。
「営業・マーケティング」「オペレーション」「バックオフィス」それぞれの責任の所在を明確にするために、どの椅子にも責任者は一人にすることが重要です。つまり、営業・マーケティングを監督するのは一人、オペレーションを運営するのも一人、バックオフィスを管理するのも一人だけです。
会社によっては上記4つのすべての椅子に社長が座っていることもあるでしょう。しかし、それでは会社の成長はありません。それぞれの椅子を完全に任せることができる人を育成または採用できたならば、社長は時間に余裕ができ、社長業に専念するという本来の姿を取り戻すことができるのです。
つまり、社長は「インテグレーター」の機能に特化するべきです。インテグレーターとは、会社の主要な機能を調和させながら統括する人です。主要機能の担当者が優秀であれば、組織全体には健全な摩擦と緊張感が生まれることでしょう。インテグレーターは組織の接着剤として、そのような摩擦を推進力へと変えていくのです。

自社に合った人材を採用するメリット
自社に合った人材、すなわちマッチ度の高い人材を採用する最大のメリットは、教育コストの削減にあります。 採用の時点でGWCに一致しているのであれば、それは採用ポジションの業務に経験や能力が合っているとうことになので、教育の必要がありません。一方で、合っていない人を採用してしまうと、社長や、マネージャーはその人のお世話をしないといけなくなります。リーダーシップ論で知られるケン・ブランチャードは、著書「1分間マネジャーの時間管理」(ハル・バローズ、ウィリアム・オンケン・Jr、ケン・ブランチャード共著)の中で、マッチ度の低い人材を採用してしまった悲劇を“猿回し”に例えて説明しています。
それは、直属の部下が抱える数々の課題や問題がサルだとしたら、サルを抱えた部下がオフィスに入ってきて、サルを残して去っていったあとの悲劇です。何匹もの飛び回るサルの世話は誰がするのでしょうか。社長やマネージャーがその世話をし続けなければなりません。しかし、それ(=猿回し)は本来の仕事ではないはずです。サルを連れてきた人(部下)は、再びサルを連れて出て行くべきです。それができない人であれば、それは間違った人を雇っているということです。
中小企業の社長やマネージャーは、自らの職務を全うするだけの十分な時間がないのが常です。しかし、それは「正しい人が正しい席に座っていないこと」が原因なのです。
まとめ
とりあえず入社させ、後からゆっくり育てようという考えから脱却しましょう。自社に合った人材を採用することが重要です。私たちが提唱する経営システムEOS®では、採用基準のフィルターとしてGWCとコアバリューを用意しています。GWCはEOS®が重要と考えている、「正しい人を正しい席に座らせる」ためのフィルターであり、採用シーン以外にも様々なビジネスシーンで活用されています。コアバリューとは、会社にとって不可欠で不変の指針となる理念や原理のことです。コアバリューは会社が独自に決めるものですが、数としては3〜7つくらいに止めることを推奨しています。
採用する人材は、GWCの全てに当てはまっていることが理想とされます。コアバリューに関しては、最低でも半数以上当てはまっていることが理想です。ただし、入社後、その人をさらに高いポジション(席)に座らせることになった時には教育が必要になってきます。ここでの教育は、高いポジションの業務遂行のためのスキルを習得させるという明確な目的があるので、社員にとって非常に有効なものです。社員教育は、“なんとなく”や場当たり的にやるものではなく、中長期的な視点に立って明確な目的を持って実施することではじめて効力を発揮します。
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